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316. sasa-jātakaṃ
うさぎ

 その昔、菩薩(釈尊の前世のことです)は兎として生まれ変わりました。その兎は、猿、キツネ、カワウソという三匹の友達と森の中に住んでいました。彼らは、昼は各々えさを探しに別に行動していましたが、夜は一緒に集まりました。

ある満月の日、兎は修行しようと思いました。三匹の友人も誘いました。兎は、「今日は修行中だから、えさをひとりで食べるのではなく、誰かに一部をあげてから食べなさい」と、注意しました。そこで、カワウソが川で人が魚を釣ったものを見つけました。キツネは畑仕事の人々が食べ残した肉とチーズのようなものを見つけました。猿は木からマンゴーを取って来ました。

兎は食べる前に布施をしなくてはならないと自分で決めした。三匹の友達の食べ物は人間も食べるので、簡単に施しをできるでしょう。「誰かが食を乞うて来たら、この身体をあげます。兎の肉を食べたがる人は、いくらでもいるでしょう」と、覚悟を決めました。兎は、修行のために命まで賭けました。

天国(帝釈天)にいる天の王・サッカはこれに驚きました。皆が正直かどうか試してやろうと、乞食に変身して、一匹ずつ訪ねました。カワウソもキツネも猿も、喜んで自分のえさの一部ではなく、全部施しました。

〔カワウソ〕「わたしには、水から陸に引き上げられた七つの赤魚があります。婆羅門よ、わたしには、これが存します。これを食べて、林に住してください」〔と〕。

〔キツネ〕「わたしには、迂闊な畑の番人が置いていった夕食があります。そして、諸々の肉の串が、二つの大蜥蜴が、さらに、一つの乳酪の壷があります。婆羅門よ、わたしには、これが存します。これを食べて、林に住してください」〔と〕。

〔猿〕「熟したアンバ〔の果〕が、冷たい水が、意が喜びとする涼やかな影があります。婆羅門よ、わたしには、これが存します。これを食べて、林に住してください」〔と〕。

サッカは「後で来ますから」と言って、えさを返して兎のところに行きました。(そして)「何か食べ物をください」と、兎に頼みました。兎は、「それは良かった。誰にでも真似できないほどすばらしい施しをしますので、薪を拾って火をおこして下さい」と言いました。サッカは自分の神通力ですぐ、ごうごうと燃え立つ火を作りました。兎は身体についている虫を落とすために身体を振って、火の中に飛び込みました。

〔菩薩は言った〕「兎には、諸々の胡麻は存在しません。諸々の豆は〔存在し〕ません。諸々の米もまた〔存在し〕ません。この火で焼いたわたし〔の肉〕を食べて、林に住してください」〔と〕。

身体が丸焼きになると思っていたのに、この火は熱いどころか異常に涼しかったのです。兎は乞食に尋ねます。「善人よ、あなたの火は威勢がよいのですが、私の毛一本も燃やせるほどの熱はありません。あまりにも涼しいのです」サッカ天は答えて曰く、「賢者よ、私は乞食ではありません。あなたの修行にかかる気持ちはどれほど正直かと試すために、天から降りたのです」。サッカは、「善行為を行うことは、どれほど大事かと後世の人々に知らせてあげます」と思って、山を絞り、液体を出して(溶岩では?)、月に兎の形を描き遺しました。



かしこいうさぎPDF版
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316. sasa-jātakaṃうさぎ  この物語は、釈尊が祇園精舎におられたとき、お説きになったものです。

ある在家信者が七日に渡って釈尊と比丘たちに食事の布施をして、最後の日に、出家生活の必需品全てを揃えてお布施しました。釈尊と比丘たちに布施をできたことで、彼が限りなく喜びを感じていました。彼をさらに喜ばせてあげようと思った釈尊が、兎の話を説きました。

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 その昔、菩薩(釈尊の前世のことです)は兎として生まれ変わりました。その兎は、猿、キツネ、カワウソという三匹の友達と森の中に住んでいました。兎は菩薩の転生でしたので、普通の動物と違って智慧がありました。彼らは、昼は各々えさを探しに別に行動していましたが、夜は一緒に集まりました。その時兎は、悪いこと、ずるいことをしてはいけないと戒の話を、また、自分だけ良ければいいという生き方ではなくて、他人のことも心配するべきですよと布施の話を、また、生きているものとして道徳的でモラルを守るべきですよと修行の話などを、よくしていました。 ある満月の日、兎は修行しようと思いました。三匹の友人も誘いました。皆、大変喜んで修行することに決めました。修行してもお腹が空くので、まずえさを探しておこうと思ったのです。兎は、「今日は修行中だから、えさをひとりで食べるのではなく、誰かに一部をあげてから食べなさい」と、注意しました。 そこで、カワウソが川で人が魚を釣ったものを見つけました。キツネは畑仕事の人々が食べ残した肉とチーズのようなものを見つけました。猿は木からマンゴーを取って来ました。 兎は草を食べればよいので、食べ物を貯蔵する必要はありませんでした。その代わりに、大きな悩みが出てきました。食べる前に布施をしなくてはならないと自分で決めたのに、草を乞うてくる人はまずいないでしょう。三匹の友達の食べ物は人間も食べるので、簡単に施しをできるでしょう。 何か自分が偽善行為をやっているような気もしました。「偽善になってはたまらない。誰かが食を乞うて来たら、この身体をあげます。兎の肉を食べたがる人は、いくらでもいるでしょう」と、覚悟を決めました。兎は、修行のために命まで賭けました。 天国(帝釈天)にいる天の王・サッカはこれに驚きました。皆が正直かどうか試してやろうと、乞食に変身して、一匹ずつ訪ねました。カワウソもキツネも猿も、喜んで自分のえさの一部ではなく、全部施しました。 61. satta me rohitā macchā, udakā thalamubbhatā. idaṃ brāhmaṇa me atthi, etaṃ bhutvā vane vasa. 〔川獺が言った〕「わたしには、七つの赤魚があります、 水から陸に引き上げられた。 婆羅門よ、わたしには、これが存します。 これを食べて、林に住してください」〔と〕。 62. dussa me khettapālassa, rattibhattaṃ apābhataṃ. maṃsasūlā ca dve godhā, ekañca dadhivārakaṃ. idaṃ brāhmaṇa me atthi, etaṃ bhutvā vane vasa. 〔野狐が言った〕「わたしには、夕食があります、

迂闊な畑の番人が置いていった。

そして、諸々の肉の串が、二つの大蜥蜴が、

さらに、一つの乳酪の壷があります。

婆羅門よ、わたしには、これが存します。

これを食べて、林に住してください」〔と〕。 63. ambapakkodakaṃ sītaṃ,

sītacchāyaṃ manoramaṃ.

idaṃ brāhmaṇa me atthi,

etaṃ bhutvā vane vasa.

〔猿が言った〕「熟したアンバ〔の果〕が、冷たい水が、

意が喜びとする涼やかな影があります。

婆羅門よ、わたしには、これが存します。

これを食べて、林に住してください」〔と〕。 サッカは「後で来ますから」と言って、えさを返して兎のところに行きました。(そして)「何か食べ物をください」と、兎に頼みました。兎は、「それは良かった。誰にでも真似できないほどすばらしい施しをしますので、薪を拾って火をおこして下さい」と言いました。サッカは自分の神通力ですぐ、ごうごうと燃え立つ火を作りました。兎は身体についている虫を落とすために身体を振って、火の中に飛び込みました。 64. na sasassa tilā atthi,

na muggā napi taṇḍulā.

iminā agginā pakkaṃ,

mamaṃ bhutvā vane vasāti.

〔菩薩は言った〕「兎には、諸々の胡麻は存在しません。

諸々の豆は〔存在し〕ません。

諸々の米もまた〔存在し〕ません。

この火で焼いたわたし〔の肉〕を食べて、林に住してください」〔と〕。

身体が丸焼きになると思っていたのに、この火は熱いどころか異常に涼しかったのです。兎は乞食に尋ねます。「善人よ、あなたの火は威勢がよいのですが、私の毛一本も燃やせるほどの熱はありません。あまりにも涼しいのです」サッカ天は答えて曰く、「賢者よ、私は乞食ではありません。あなたの修行にかかる気持ちはどれほど正直かと試すために、天から降りたのです」。サッカは、「善行為を行うことは、どれほど大事かと後世の人々に知らせてあげます」と思って、山を絞り、液体を出して(溶岩では?)、月に兎の形を描き遺しました。 ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆   ☆ 

この話を聞いて、お布施した在家信者が大変喜びを感じて、また真理を理解しました。

【この物語の教訓】

良いことは、我が身も惜しまないでやるべきです。人類に遺るのは、日常やっているマンネリの生き方ではなく、すばらしい善行為だけです。この物語の筋は、その戒めではないかと思います。


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