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028. Nandivisāla jātaka ナンディ・ヴィサーラ

《あらすじ》
 その昔、菩薩(お釈迦さまの前世)は牛として生まれ変わり、ガンダーラ王国のあるひとりのバラモンに養われ、ナンディ・ヴィサーラ(以下ナンディと省略)という名前をつけられて息子のように大切に育てられました。

大きくたくましく成長した牛は、ある日、彼に言いました。
「お父さん。牛持ちの商業組合長のところへ出掛けて『私の牛は連結された百台の車を動かせます』と言って千金の賭けをしてください。私は若くて力持ちだから、百台の車を牽いてあげて、お父さんに大金が入るようにしてあげます」

バラモンは商業組合長のところへ行って、自分の牛の自慢話を始めました。プライドが傷ついた商業組合長は、「そんな馬鹿な。じゃあ、千金を賭けます。できるなら、牽かせてみろ」と挑戦しました。

百台の車に砂利や石をいっぱいに積んで綱で連結して、用意ができました。ナンディを先頭の車の先端に、ただ一頭だけ繋ぎました。そしてバラモンが車の先端に坐り、突き棒を振り上げて、「行け、根性なしめ! 牽け、根性なしめ!」と叫びました。

ところが菩薩である牛は、「この人は、根性なしではない私を『根性なし』という言葉で、乱暴に呼びつける」と思うと、四本の足が柱のように硬直してしまって、動かせずに立ち止まってしまいました。この瞬間にバラモンの負けが決まり、彼は千金を取られてしまいました。

賭けに負けて家に帰ったバラモンがショックのあまりに寝込んでいるので、ナンディは彼に近づき、「生まれて初めて侮辱された私は、ショックで硬直してしまいました。(賭けに負けたのは)あなたの蔑(さげす)みの言葉のせいです。試しに今度は、二千金の賭けをしてください。彼もすぐ乗ってくるでしょう。ただし、言葉に気を付けてよ」

バラモンは牛の話を聞いて出掛けて行き、今度は倍額の二千金で賭けをすることにしました。

そして今度は車の先端を、しっかりと牛の頸に固定しました。そこでバラモンは車の先端に坐って、ナンディの背中をやさしくさすりながら、「賢いナンディくん、がんばれ、負けるな!」と、励ましました。

菩薩である牛は、一列に連結されている百台の車を全く一気に引いて、最後尾の車を先頭の車があったところまで持ってきて止めました。牛持ちの商業組合長は賭けに負けて、バラモンに二千金を手渡しました。そのうえ他の人々も、菩薩である牛の力強さに感嘆して、沢山の財貨を贈りました。

028. Nandivisāla jātaka ナンディ・ヴィサーラ


【現在の物語】

 この物語は、釈尊がジェータ林におられたとき、六人の仲間の比丘(六群比丘)たちの罵詈雑言(ばりぞうごん)についてお説きになったものです。そのころ、サンガの和を乱す比丘たちが善良な比丘を、生まれ・名・姓・職業・技能・病・身体の特徴・欲の心・罪・罵り(ののしり)などを言っては困らせていました。善良な比丘たちがお釈迦さまにこのことを報告したところ、お釈迦さまは彼らを呼び出して叱責され、


「むごい言葉というものは、動物たちですら嫌うのである。過去においても、ある動物が、自分に対してむごい言葉を言い放つ者に、千金もの損をさせたのである」とおっしゃって、過去の物語をお話しになりました。



【過去の物語】

 その昔、菩薩(お釈迦さまの前世)は牛として生まれ変わり、ガンダーラ王国のあるひとりのバラモンに養われ、ナンディ・ヴィサーラ(以下ナンディと省略)という名前をつけられて息子のように大切に育てられました。


大きくたくましく成長した牛は、大変世話になったこのバラモンに、役に立つことを何かしなくてはいけないと思いました。自分の体力を使って収入でも入るようにしてあげれば、バラモンの貧しい人生が豊かになるだろうと思いました。


ある日、彼に言いました。

「お父さん。牛持ちの商業組合長のところへ出掛けて『私の牛は連結された百台の車を動かせます』と言って千金の賭けをしてください。私は若くて力持ちだから、百台の車を牽いてあげて、お父さんに大金が入るようにしてあげます」(バラモンは)息子のつもりで育てたナンディの力自慢を、あまりにも可愛くて無視することができませんでした。


バラモンは商業組合長のところへ行って、自分の牛の自慢話を始めました。商業組合長も負けずに、自分の牛たちの力強さを強調しました。すると、バラモンは咄嗟に(言いました。)「うちの子は百台の車を繋げてもいけますよ。千金でも賭けられます」プライドが傷ついた商業組合長は、「そんな馬鹿な。じゃあ、千金を賭けます。できるなら、牽かせてみろ」と挑戦しました。貧しいバラモンにとってはとんだ迷惑でしたが、後には引けません。


百台の車に砂利や石をいっぱいに積んで綱で連結して、用意ができました。いつもお父さんにきれいに身支度させてもらっているナンディも、誇らしげに出番を待っていました。ナンディを先頭の車の先端に、ただ一頭だけ繋ぎました。そしてバラモンが車の先端に坐り、突き棒を振り上げて、「行け、根性なしめ! 牽け、根性なしめ!」と叫びました。


(仕事をしたがらない普通の牛を働かすために、牛に対してひどい言葉で叱るのは普通です。バラモンもうっかりして、我が子同然のナンディに乱暴な言葉を浴びせてしまいました。ナンディにとっては、あまりにもショックでした。)


ところが菩薩である牛は、「この人は、根性なしではない私を『根性なし』という言葉で、乱暴に呼びつける」と思うと、四本の足が柱のように硬直してしまって、動かせずに立ち止まってしまいました。この瞬間にバラモンの負けが決まり、彼は千金を取られてしまいました。


賭けに負けて家に帰ったバラモンがショックのあまりに寝込んでいるので、ナンディは彼に近づき、「お父さん、私があなたに言われた躾を、ひとつでも破ったことがありますか? あなたに気に入らないことを、ひとつでもやったことがありますか?」「いいや、そんなことはなかったよ」「では、どうして私を『根性なし』という侮辱する言葉で呼びつけるのですか。生まれて初めて侮辱された私は、ショックで硬直してしまいました。(賭けに負けたのは)あなたの蔑(さげす)みの言葉のせいです。試しに今度は、二千金の賭けをしてください。彼もすぐ乗ってくるでしょう。ただし、言葉に気を付けてよ」


バラモンは牛の話を聞いて出掛けて行き、今度は倍額の二千金で賭けをすることにしました。そして今度は車の先端を、しっかりと牛の頸に固定しました。そこでバラモンは車の先端に坐って、ナンディの背中をやさしくさすりながら、「賢いナンディくん、がんばれ、負けるな!」と、励ましました。菩薩である牛は、一列に連結されている百台の車を全く一気に引いて、最後尾の車を先頭の車があったところまで持ってきて止めました。牛持ちの商業組合長は賭けに負けて、バラモンに二千金を手渡しました。そのうえ他の人々も、菩薩である牛の力強さに感嘆して、沢山の財貨を贈りました。


【現在の物語と過去の物語のつながり】

 お釈迦さまは、「比丘たちよ、むごい言葉というものは、だれにとっても気持ちのよいものではない」と、サンガの和を乱す比丘たちをお叱りになって、言葉使いに関する新しい戒律を設定されました。

そして、次のような詩句を唱えられました。


快い言葉こそ語りなさい 不快な言葉は決して語ってはならない

実に、快い言葉を語る人のために 牛さえも重荷を運び、

財貨をもたらす しかも、それによって(快い言葉) 人々は、幸福な者となる


お釈迦さまは、「その時のバラモンはアーナンダであり、ナンディ・ヴィサーラは実に私であった」と言われました。


【この物語の教訓】

 呪文には魔力があると思う人が、希でもいるかもしれません。でも人間が他人に語る言葉が、全て呪文なのです。残念ながら、我々が語る呪文は、不幸を招く呪いの呪文だけです。


相手の気持ちをまったく気にせず、自分勝手な感情で放つきつい言葉が、自分にも他人にもかける呪いの呪文だと、思った方が良いのではないかと思います。動物さえも快い言葉を好みます。いかなる場合でも、他を蔑(さげす)んではならないのです。


【記事の作成にあたっては、日本テーラワーダ仏教協会ホームページ「法話と解説 ジャータカ物語」を使用させて頂きました。No.5(『ヴィパッサナー通信』2000年4号)ナンディ・ヴィサーラという牛の話 Nandivisāla jātaka(No.28) https://j-theravada.com/jataka/jataka005/ 監修 :アルボムッレ ・スマナサーラ長老 編集 :高橋清次】

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